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京都地方裁判所 昭和56年(ワ)1147号 判決

原告

川口清美

被告

木村石油株式会社

主文

一  被告らは原告に対し各自金一一五万六二六五円及び内金一〇四万六二六五円に対する被告木村石油株式会社については昭和五六年八月一四日から、被告山本茂一については同月一五日から、内金一一万円に対する昭和五八年七月五日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し各自金二九〇〇万円及び内金二六五〇万円に対する被告木村石油株式会社については昭和五六年八月一四日から、被告山本茂一については同月一五日から、内金二五〇万円に対する昭和五八年七月五日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

原告は昭和五三年一一月七日午前九時一〇分ころ京都市左京区高野竹屋町五番地京都バス高野営業所駐車場内の出入口付近において自転車に乗つていたところを被告会社所有被告山本運転の普通貨物自動車にはねられ、その結果顔面を強打して頭蓋内出血、顔面など挫創挫傷の傷害を負つた。

2  被告らの責任

(一) 被告会社は当時加害車両の所有者であり自己のため同車を運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法三条に基づきその運行によつて原告が身体に傷害を受けたことによる損害を賠償する義務がある。

(二) 被告山本は右加害車両を運転して京都バス駐車場内に燃料を配達すべく川端通を北進してきたものであるが、右折して同駐車場内に入るに際して道路中央に寄せて一旦停止し対向車線を南進する車両の流れの途切れるのを待ち進路前方の安全を確認して発進し駐車場内に進入すべきであるのに、対向車線の車両の流れの途切れたわずかの間隙を縫つて進入すべき地点よりはるか南方から対向車線を斜めに横切るような進路をとつて駐車場内に進入し原告に突きあたつたもので、被告山本には南行車両のみに気を奪われ進路前方を注視し安全を確認することを怠つた過失がある。したがつて、被告山本は民法七〇九条に基づき原告の損害を賠償する義務がある。

3  治療の経過と後遺障害

原告は、昭和五三年一一月七日から同年一二月一四日まで三八日間入院し、同月一五日から昭和五八年三月二八日まで通院(実通院五〇二回)して治療を受けたが、現在も、頭痛、眼の痛み、かすみ、耳鳴り、耳の痛み等の後遺障害が残つている。

4  損害

(一) 休業損害 六五〇万円

原告は、事故前飲食店に勤めて月額二五万円を下回らない収入を得ていたが右事故後三二か月間全く働けず収入を得られなかつた。これによる損害額八〇〇万円のうち六五〇万円を請求する。

(二) 後遺障害による逸失利益 一三〇〇万円

原告には自動車損害賠償保障法施行令二条所定の後遺障害等級第七級(労働能力喪失率五六パーセント)を下まわらない後遺症が残つており今後一〇年間(そのホフマン係数七・九四四九)継続するものとみられるのでこれによる逸失利益の内金一三〇〇万円を請求する。

(三) 慰謝料 七〇〇万円

前記事故による受傷及び後遺障害による原告の精神的損害は金銭に見積りがたいほど多大であるが相当額の内金として七〇〇万円を請求する。

(四) 弁護士費用 二五〇万円

原告は本件訴訟を原告代理人に委任し着手金として三〇万円を支払つたほか報酬として請求認容額の一割に相当する額の金員を判決言渡と同時に支払うことを約したので二五〇万円を相当因果関係のある損害として請求する。

よつて、原告は被告ら各自に対し右損害合計額二九〇〇万円及び内、弁護士費用を除いた二六五〇万円に対する不法行為の日の後であり訴状送達の日の翌日である被告会社については昭和五六年八月一四日から、被告山本については同月一五日から、内弁護士費用二五〇万円に対する判決言渡の日の翌日である昭和五八年七月五日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告らの認否及び主張

1(一)  請求原因1項の事実は認める。

(二)  同2項(一)の事実と被告会社の責任は認め、同(二)の事実を否認し被告山本の責任は争う。

(三)  同3項の事実は知らない。

(四)  同4項の事実は否認する。

2(一)  原告は本件事故当時無職であり収入はなかつたから原告には休業損害はない。

原告の主張する後遺障害は本件事故と因果関係がない。仮りに因果関係があるとしてもその程度は一四級(労働能力喪失率五パーセント)程度であり喪失期間は長くて二年間である。

(二)  抗弁

(1) 過失相殺

原告は通行してはならない京都バス駐車場内を通行し被告山本が同駐車場に給油のため進入しようとした際に発生した事故であるから原告の過失割合は少なくとも五〇パーセントを下らない。

(2) 損害の填補

被告らは原告に対し本件事故による損害の賠償として左記の合計額二九三万五四六四円を支払ずみである。

治療費 一二二万七七五〇円

付添看護費 一五万四九八〇円

通院交通費 三万円

雑費その他 二二万七七三四円

休業損害補償費 一二七万五〇〇〇円

見舞金 二万円

三  抗弁に対する原告の認否及び主張

1  過失相殺の抗弁は争う。原告が京都バス駐車場を通つた事実は認めるが同駐車場は一般に歩行者や自転車が通り抜けている状況にあり、また原告が同駐車場を通らずに川端通の歩道を通つて本件現場にさしかかつたとしても事故が発生したと予想されるから、原告には過失がない。

2  損害填補の抗弁のうち、治療費一二二万七七五〇円及び付添看護費一五万四九八〇円については知らない。通院交通費三万円は認める。雑費その他二二万七七三四円は否認する。休業損害補償一二七万五〇〇〇円及び見舞金二万円は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

原告が昭和五三年一一月七日午前九時一〇分ころ京都市左京区高野竹屋町五番地京都バス高野営業所駐車場出入口付近において自転車に乗つていたところ、被告会社所有被告山本運転の普通貨物自動車にはねられ、その結果顔面を強打して頭蓋内出血、顔面など挫創傷の傷害を負つた事実については当事者間に争いがない。

二  被告らの責任

1  被告会社

被告会社が当時加害車両の所有者であり自己のために同車を運行の用に供していたことは当事者間に争いがなく、したがつて、被告会社は自動車損害賠償保障法三条に基づきその運行によつて原告の身体に傷害を負わせたことによる損害を賠償する義務がある。

2  被告山本茂一

いずれも原本の存在と成立に争いのない乙第三二号証の二、三、五、乙第三三号証の六ないし九、一四、一五、一七、一九、原告、被告山本茂一各本人尋問の結果(ただし一部採用しない部分を除く。)を総合すると次の事実を認めることができる。

被告山本は、川端通東側にある京都バス駐車場内に給油のため加害車両を運転して川端通北行車線を北進し南行車線を東へ横断して同駐車場内に右折進入しようとして右折指示器を点滅させて同駐車場西側出入口(西に面して出入口が二か所ありそのうちの北寄りの出入口)前の車道中央(南行車線に差しかかつた位置)に一時停止し、二〇ないし三〇秒間信号待ちで停滞していた南行車線の空くのを待つうち南行車両が動きだし南行車の一つであつたタクシーが被告山本に対して道を譲り先に右折するよう促したため、被告山本は同駐車場西出入口に向け発進し時速約一〇キロメートルで右折東進し南行車線を横断したのであるが同出入口右側に気を奪われ進路左前方の安全を確認しないまま進行し道路東側歩道直前まできたとき、原告の乗つた自転車が対向してくるのを前方約二・五メートルに接近して初めて発見し危険を感じて直ちに急制動の措置をとつたが及ばず、右出入口付近で自車前部を原告の自転車の右側部に衝突させた。原告は、一般通路でない前同駐車場内に北出入口から入り南に向けて進行したのであるが同駐車場内には駐車車両があつて右前方に対する見通しが良くなかつたにもかかわらず十分安全を確認することなく前同西出入口付近に至つたとき突然被告山本運転車両が駐車場に進入しようとして接近してきているのに気づき、直ちに左へハンドルを切つたものの間に合わずに衝突した。以上の各事実を認めることができ、原告被告山本茂一各本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によると、被告山本には進路左前方の安全確認を怠つて進行した過失があるから民法七〇九条に基づき原告の損害を賠償する義務がある。しかしながら、原告にも一般通路でない京都バス駐車場内に進入し同所に出入する車両の動静に対する注意を怠つたまま不用意に自転車を運転した過失が認められ、右事故の状況を総合考慮すると被告山本と原告との過失割合は、被告山本七割、原告三割とするのが相当である。

三  治療の経過と後遺障害

いずれも成立に争いのない甲第二ないし第七号証、同第一二ないし第一七号証、乙第三四号証及び原告本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。

1  次のとおり入通院して治療を受けた。

昭和五三年一一月七日から同年一二月一四日まで根本病院に三八日間入院。

同年一二月一五日から昭和五五年一一月一一日まで根本病院に通院(実日数二四〇日)。

昭和五四年三月八日から同年一〇月一三日まで鞍馬口病院に通院(実日数二〇日)。

同年三月二三日から同年一二月二八日まで堀川病院に通院(実日数五五日)。

同年八月二一日から昭和五五年一〇月八日まで京大病院眼科に通院(実日数九日)。

昭和五五年一月二五日から昭和五六年一月七日まで京大病院耳鼻科に通院(実日数一一日)。

昭和五六年七月二五日から同年一〇月二七日まで安井病院に通院(実日数六七日)。

同年一〇月二八日から昭和五八年三月二八日まで川端診療所に針灸治療のため通院(実日数一〇〇日)。

2  原告は、昭和五五年一〇月八日に京大病院眼科で症状固定の診断を受け後遺障害として右眼眼痛、右眼霧視の自覚症状が残り、また同年一一月一〇日に根本病院で症状固定の診断を受け後遺障害として偏頭痛等の自覚症状が、さらに昭和五六年一月七日に京大病院耳鼻科で症状固定の診断を受け後遺障害として聴力低下を伴う両耳鳴の自覚症状が残つた。

四  損害

1  休業損害 二〇二万円

成立に争いのない甲第七号証、原告の存在とその成立に争いのない乙第三三号証の一七、証人川口清長の証言及び原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は昭和四九年一二月ころから昭和五三年一〇月八日ころまで飲食店等に勤めて収入を得ていたが右同日ころから本件事故までの約一か月間仕事に就いておらず全く収入がなかつたこと、しかしながら原告は右期間中も飲食店等に就職先を探しており飲食店に就職すれば少なくとも一か月平均二〇万円の収入が見込まれること、本件事故後今日まで原告が職業に就いていないこと、以上の各事実を認めることができる。右事実によれば、原告は本件事故当時たまたま無職であつたけれども就労の能力も意志もあり前記治療期間中に就職できた可能性を十分に認めることができる。したがつて、原告の得べかりし利益は月平均二〇万円とするのが相当である。ところで、前記のとおり原告が退院後受けた治療は耳や眼の自覚症状の改善を主な目的とするものであつて他覚所見がなく治療をしてもほとんど症状が改善しないまま遅くとも昭和五六年一月七日には症状が固定したことが認められることを考慮すると本件事故による傷害と相当因果関係のある逸失損害は左記のとおりの労働能力喪失割合による逸失金額と認めるのが相当である。

(一)  昭和五三年一一月七日から同年一二月一四日までの入院期間三八日間について一〇〇パーセント 二五万三三三三円

20万×38/30=25万3,333円

(二)  同五三年一二月一五日から昭和五四年一二月二八日(堀川病院通院最終日)まで三七九日間について六〇パーセント 一五一万六〇〇〇円

20万0.6×379/30=151万6,000円

(三)  昭和五四年一二月二九日から昭和五六年一月七日(症状固定日)まで三七六日間一〇パーセント 二五万〇六六七円

20万×0.1×376/30=25万0,667

合計 二〇二万円

2  後遺障害による逸失利益 三二万七七二〇円

前記のとおり遅くとも昭和五六年一月七日までには、偏頭痛、右眼眼痛、右眼霧視、両耳鳴等の後遺障害を残して症状固定し、原告本人尋問の結果によれば、原告の右症状は原告が根本病院に入院していたころから退院後二〇日くらい経過したころにかけて発症したもので本件事故による傷害以外にそれらの症状の原因と考えられる事実は見当らず交通事故で頭部に傷害を受けたために眼や耳に障害が起きることはまれではなく京大病院眼科の医師も原告の右眼眼痛等の眼の障害について交通事故が原因であろうと診断していることを認めることができ、右事実によれば、原告の前記後遺障害は本件事故によるものと認められるけれども右後遺障害の内容及び程度からすれば、原告の後遺障害による労働能力喪失率を五パーセント、労働能力喪失期間を三年(そのホフマン係数二・七三一)とするのが相当であり、従つて後遺障害による逸失利益は三二万七七二〇円である。

20万×12×0.05×2.731=32万7,720

3  慰謝料 一七〇万円

前記認定の原告の受傷内容、治療の経過、後遺障害の内容及び程度を考慮すると本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては一七〇万円が相当である。

五  過失相殺

前記のとおり原告の過失割合は三割であり原告の全損害額について過失相殺するのが相当であるから、前記認定の損害合計額四〇四万七七二〇円及びその余の損害額一六四万四六四円(成立に争いのない乙第一号証、同第二二ないし第二六号証、同第二八ないし第三一号証と弁論の全趣旨を総合すると、右の外少くとも原告の治療費として一二二万七七五〇円、付添看護費として一五万四九八〇円、通院交通費として三万円、その他治療費交通費諸雑費二二万七七三四円を要したことが認められる。)の総額五六八万八一八四円について右割合により按分すると原告の請求しうべき額は三九八万一七二九円となる。

六  損害の填補

原告が被告らから休業損害補償として一二七万五〇〇〇円、見舞金として二万円、通院交通費として三万円合計一三二万五〇〇〇円の支払いを受けたことは当事者間に争いがなく、前記乙第一号証、同第二二ないし第二六号証、同第二八ないし第三一号証によると、被告らは右の他に原告の治療費として一二二万七七五〇円、付添看護費として少くとも一五万四九八〇円、その他治療費交通費諸雑費として二二万七七三四円を支払つた事実が認められるから、右合計額二九三万五四六四円を前記損害額三九八万一七二九円から控除すると残額は一〇四万六二六五円となる。

七  弁護士費用

原告が本件訴訟を原告代理人に委任した事実は裁判所に顕著であり、事案の難易、訴訟の経過、認容額など諸般の事情に照らすと原告が弁護士費用として請求することのできる額は一一万円とするのが相当である。

八  よつて、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し一一五万六二六五円及び内弁護士費用を除いた一〇四万六二六五円に対する損害発生の日以後であり訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな被告会社については昭和五六年八月一四日から、被告山本については同月一五日から、内弁護士費用一一万円に対する判決言渡の日の翌日である昭和五八年七月五日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田秀文)

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